特別寄稿:東ティモールの教育の現状(前編)

解説:須藤玲
東京大学大学院教育学研究科博士課程、日本学術振興会特別研究員(DC1)

弊部杉山竜一(プリンシパル・コンサルタント/上智大学・グローバル教育センター・講師)が、大学講義の際にティーチング・アシスタントをお願いした若手研究者から寄稿して頂きました。貴重な東ティモールの報告を2回に渡りお届けします。

東ティモール国内のCOVID-19にまつわる動向

東ティモール保健省は3月21日に国内で初の新型コロナウイルスの感染確定症例が発生した旨を発表し、それに先駆けて3月18日には、同国で入国規制措置が即日発動されました。これによって、首都ディリ発着の航空便は減便又は運休となりました。現在はWFPによるチャーター機での必要物資の輸送があるものの、一般人の空路での行き来は制限されています。また、政府による非常事態宣言は3月27日から6月29日まで発出されていました。

早期段階からこのような措置を講じたこともあり、WHOによると、2020年3月20日以降、東ティモールにおける新型コロナウイルス感染者は24名、死者は0名(2020年7月26日時点)で、世界でも感染者が少なく、死者も出ていない珍しい国の一つになっています。

学校の状況(休業の状況)

スアイ県の小学校

東ティモールで最初の新型コロナウイルス感染者が出たことを機に、東ティモール教育省は3月23日にすべての学校に対して1週間の休校を命じました。この期間、学校だけでなく集会も禁止され、特に東ティモール国民の生活において欠かすことのできない教会でのミサや集会が禁止されました(東ティモールの国民のほとんどがカトリック教徒であるため)。

その後、非常事態宣言の延長によって、結果的に3月23日から5月31日まですべての学校が休校となっていました。この休校期間を経て、6月の学校再開を目指して教育省は各校長宛に学校内の消毒作業を指示し、6月15日を再開のめどとしました。その際、学校再開の基準として、教育省と保健省が共同で基準項目を作成しました。7月22日時点で、すべての中等教育学校及び初等教育学校のうち、約80%にあたる1,902校が6月中に再開されたと報告されています。

各学校へ休校の通達を出したドゥルセ教育大臣(当時)は、休校を指示する文面と共に、全国の子どもたちに向け、「大切なことは、(生徒の)皆さんが家族とともに過ごすこの休みの時を大切にし、有効利用することです。家族の間でいろいろなお話をして楽しんだり、家庭菜園を手伝ったり、一緒に歌ったり、家族の愛を深めることです。」とメッセージを発信しました。

子どもの学びに影響を及ぼすため、休校措置はネガティブな対応と一般的には考えられますが、そうした中でも東ティモールの教育大臣がこのようなメッセージを子どもたちに向けて発信したことは素晴らしいことだと考えられます。また東南アジアで最も「遅れた」国の一つとされている東ティモールですが、こうした国から学べることも大いにあるのではないかと感じさせられるメッセージであったと思います。

教育分野における政府の対応(休校期間中)

教育省は休校措置に伴って、子どもの学びが継続されるよう、UNICEFと協議を行いました。その結果、教育省とUNICEFは、遠隔教育プログラム“Eskola Ba Uma”(英訳: School Goes Home)を立ち上げました。このプログラムでは、いかなる子どもの学習環境にも対応できるよう、テレビ・ラジオ・オンライン(教育省のFacebookなど)・携帯電話・紙の様々な媒体を通じて学習教材を提供するとされています。また、このコンテンツの中のオンライン部門では、マイクロソフト社、UNICEF、ケンブリッジ大学が共同開発した“Learning Passport”を採用しています。このプログラムには、子どもにやさしい教科書、童話、歌やビデオが盛り込まれており、国の学校教育カリキュラムに則った学習をリモートで行うことができるコンテンツとなっています。

またUNICEFは、インターネット環境があれば本や教材をダウンロードできるアプリの提供を開始し、一度ダウンロードすれば、インターネット環境が無くても家での学習を続けることができるようにしました。近く、UNICEFと現地通信会社の提携によって、60万人の携帯電話利用者が学習教材に自由にアクセスできるように成人に対してスキルトレーニングを行う予定です。同時にショートメッセージに登録することで、子どもの自宅学習をどうサポートするかについてのアドバイスやコツなどを受信できるシステムを構築する予定であるとのことです。

後編に続く

東ティモールの小学校に関する基礎情報

学年暦

週6日制(月曜日~土曜日)

  • 1学期:1月~3月中旬
  • (2週間の休暇)
  • 2学期:復活祭明け(4月末~5月初旬)~7月
  • (2週間の休暇)
  • 3学期:8月~11月
  • (4週間の休暇)
    ※各学期末に試験が行われる。

参考文献

在東ティモール日本国大使館
UNICEF Timor-Leste
East Timor and Indonesia Action Network

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