日本の全人的な教育とは

日本の学校教育の特徴である全人的な教育と海外での普及事例について紹介します。

子どもの多面的な側面を教育することは、グローバル化が進み複雑化した21世紀において、多くの国の目標となっています。子どもが社会で生きていくためには、単に学術的な知識などの認知能力だけではなく、情緒の安定、価値観、態度、社会的スキルなどの非認知能力が必要です。現在の複雑な世界において、他者とのコミュニケーションや協調性などの能力、多文化社会での活動を可能にする価値観や態度、思考力、さらには様々な分野の基礎知識や高度な知識を育成することは、多くの教育者に関心を示されており、これまで学校教育を認知能力育成の場として認識されてきた国であっても、子どもを全人的に育成するための幅広い役割を学校に求めています。

日本の学校教育は、昔から子どもの全人的な成長を重視しており、公式のカリキュラムの一部として全人的な教育の時間が設けられています。日本式の全人教育の中心的な要素の一つに、特別活動(特活)があります。「特別活動(特活)」とは、日本の学校教育の中で子どもたちの自治的な能力や自主的な態度を育て、学力向上の基盤に必要な人間関係を築くなど、子どもの成長に欠かせない教育活動を指します。日本では当たり前に行われている特活は、これまで海外ではほとんど紹介されていませんでしたが、近年エジプト、インドネシア、マレーシアなどで日本の特活を参考にした活動が徐々に取り入れられ始めています。

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海外での導入例

エジプト

特活導入前のエジプトは、情勢が比較的安定していたが、学校教育においては、児童数の急増による教室の過密化、行きすぎた試験偏重主義、専門科目の教員不足による実技教科の機会縮小等、様々な課題が挙げられており、社会性の醸成や授業の理解不足が指摘されていました。
2015年に安倍元首相がエジプトへ訪問した際、エルシーシ大統領より日本の教育への称賛が寄せられ、日本式教育のエジプトへの導入に関心が示されました。その後、2016年のエルシーシ大統領訪日時に発表された両国首脳共同声明「エジプト・日本教育パートナーシップ(EJEP)」に基づき、エジプトの経済・社会の発展に資する人間性豊かな人材の育成を目指し、日本の教育の特徴を生かした支援を実施しています。
2017年よりJICA技術協力プロジェクト「学びの質改善のための環境整備プロジェクト」が開始し、2018年にはエジプト政府により、コンピテンシーを重視する新教育システム(Education 2.0)が段階的にエジプト全土の一般校に導入され、その中に特別活動(特活)を組み込み、児童の人格形成を図っていくことが決定されました。
2021年9月からは「学びの質改善のための環境整備プロジェクト」の第2フェーズにあたる「特別活動を中心とした日本式教育モデルの発展・普及プロジェクト」が開始し、6年間で中学校3年生までの導入を目指しています。

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インドネシア

インドネシアでは、子どもたちの高い学力を育てるため、教師が協力して実践的に授業改善を行える手法として、レッスンスタディへ高く関心が寄せられています。インドネシアでの日本型教育モデルの始まりは、教育の質の改善を目的として国際協力機構(JICA)とインドネシア教育文化省により、レッスンスタディのプロジェクトが実施されたことでした。レッスンスタディはJICAのプロジェクトとして2006年から2013年に各地で主に地域の理数科教員の教科別研修として取り組まれてきました。2012年には、JICAのレッスンスタディのコンサルタントとして活躍してきたジャワの大学(インドネシア教育大学、マラン州立大学)を中心に、インドネシア・レッスンスタディ学会(ALSI:Asosiasi Lesson Study Indonesia)が設立されました。現在ALSIには、全国の56のパートナー大学と、その大学と協働する学校が加盟していて、毎年レッスンスタディの国際学会が開催されています。
また新カリキュラムにより、試験対策を目的とした授業から、教科の専門家から子どもの学びのファシリテーターとして教師の役割の変容が求められています。特に教科を横断した取り組みとして、人格形成や道徳教育を重視することが求められており、2017年頃から特別活動への関心も高まっています。まだ特別活動を実践しているのは限られた数の学校ですが、掃除や給食などは、宗教教育を大事にするインドネシアの風土に合うことから、日本のモデルから実践に取り入れている学校は増加してきています。新カリキュラムの目指す、人格形成も含めた国際的人材の育成にマッチすることから、学びのデザイン・モデルとして今後もニーズが高まることが予想されます。また、2020年からオンライン・遠隔授業が続く中、子どもたちの社会的スキルの育成や、居場所づくりも課題となっており、オンラインで特別活動を行うことで子どもたちの居場所作りやコミュニケーション促進を図る試みも行われています。

ヨルダン

情勢の不安定な周辺国からの移民、難民が多いヨルダンでは、長年に渡り、様々な国籍や背景を持つ生徒がヨルダンの公立学校へ通っています。特に近年では、2011年のシリア紛争開始以降、多くのシリア難民の子どもたちがヨルダンの学校に通うようになりました。急激な学校環境をめぐる変化の中、国籍の違いを原因とする軋轢が、学校内のみならず、コミュニティでも見受けられました。
このような状況に対応すべく、国境なき子どもたちは2014年から4年間、公立校において補習授業と相互理解を促すアクティビティを実施してきました。この事業を通じて、学力とともに、相互理解については変化が見られましたが、より良い学校環境を醸成し、他者理解や規範意識といった社会性を高めていく必要性もまた、見えてきました。また、社会性育成を目指した活動をルーティンとして学校生活に定着させていく工夫と継続性の担保できる体制を構築していくことが肝要であることも明確になりました。
2018年よりJICA草の根技術協力事業を受託し、アンマンの公立校12校を対象に、基礎的なコミュニケーション能力と、話し合いによる生徒の解決能力を養う学級会、教員が学校生活のルーティンとして取り入れやすく、責任感を育てつつ誰もが他者の役に立つ機会を得られる日直当番、異学年交流を通じて他者と助け合いながら、誰もが活動に参画できる縦割り班の試行を開始しました。これらの活動は、社会性育成を期待できるとともに、ヨルダンの現状における教育システムを尊重しつつ実施可能な活動ではありましたが、学校現場にとっては全く新しい形態の活動であったため、試行にあたって教員研修、活動の実践、振り返りを繰り返し行ってきました。そして、それらの経験をもとに、ヨルダン教育省とともに指導要網(ガイドライン)、教員の実践経験から得たフィードバックを反映させ、特別活動の実施方法について詳細に記した指導要領(ハンドブック)、対象校での実践の様子を収めた視聴覚教材を作成しました。
事業終了時にヨルダンで開催した総括報告会では、生徒の変化を直接目にして教員自身の意欲が上がったこと、生徒個々人に対する理解が深まるとともに、生徒への関心そのものが高まったなど、教員の肯定的な変化が報告されました。また、特別活動の実践を通じた教員自身の自己開示により生徒が抱く教員への印象に変化が生まれ、信頼関係を築くことができるようになるなど、学級経営にも良い影響が生じたことが確認できています。生徒からも特別活動の実践前と比べて、学級の雰囲気が良くなった、生徒同士協力しあうようになった、タスクをやり遂げることで自信がついた、といった声が聞かれています。

●教員インタビューはこちら
●JICA草の根技術協力事業「社会性育成を主眼に置いた特別活動実践と体制構築事業」についてはこちら

マレーシア

マレーシアでは、社会経済背景による学習到達度の格差や、多民族国家における異文化交流・多文化理解の促進、またグローバル化する世界への対応が国内課題として挙げられています。
このような背景から、マレーシア政府は子どもの全人的な発達を教育目標の一つに据え、言語、数理、知識といった認知的な能力の獲得のみならず、レジリエンスや他者と協働する能力、市民性等の非認知能力の涵養を重視しています。それゆえ、マレーシア教育省はこれまでに非認知能力の向上に関連する学校活動を推進してきました。しかし、期待するような成果が得られず、より具体的な取り組みが必要との認識に至りました。そこで、日本のJICAの技術協力支援を得て、非認知能力向上に効果的な実践とその普及を目指す「全人教育推進プロジェクト」(通称MAKMurプロジェクト)を2021年に開始しました。
同プロジェクトは日本の特別活動を参照し、マレーシアの教育制度・学校教育文化に配慮した全人的な教育活動の実効性を高めることを狙いとしています。現在は、実践活動のための教師用ツールキットの開発に取り組んでおり、今後は、ツールキットを用いて教員養成校の指導員や学校現場の教員へ研修が行われる予定です。(2021年12月)
事業詳細は、下記までお問い合わせください。
マレーシア国全人教育推進プロジェクト
運営事務局代表 特定非営利活動法人アジア科学教育経済発展機構(アジアシード)makmur@asiaseed.org

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お問い合せ

もっとこのような事例を知りたい、全人的な教育の活動を通じて海外の学校とつながりたい、などのご要望があればぜひお問い合せください。

メールでのお問い合わせはこちら:
holistic_edu@padeco.co.jp