【現地レポート】ラオスの教育改革を支える:算数教科書プロジェクトの裏側とは?

※本記事は、2023年5月にPodcastで配信された下記インタビューを再編したものです。

今回は、ラオスで教育分野の開発コンサルタントとして活動する西原さんに、現地での取り組みや教育事情についてお話を伺いました。プロジェクトは終盤を迎え、西原さんはラオスに滞在しながら(2023年当時)、教科書の全国展開支援やプロジェクト報告会の開催など、慌ただしい日々を送っています。

インタビューでは、ラオスの教育制度の特徴や課題、コロナ禍での現場の対応、そして7年かけて取り組んできた教科書づくりの工夫やエピソードまで、たっぷり語っていただきました。
“子どもたちが自分で考え、気づく授業”を目指して形にしてきた教科書。現場での試行錯誤や小さな変化から、教育の面白さが伝わってきます。

ラオスってどんな国?

―西原さん、今日はどうぞよろしくお願いします。まずは、ラオスという国の基本情報から教えていただけますか?

西原: はい、ラオスは東南アジアで唯一の内陸国で、タイ、ベトナム、中国、ミャンマー、カンボジアの5カ国と国境を接しています。人口は約730万人で、日本の埼玉県と同じくらい。それが本州ほどの国土に散らばって暮らしているので、全体としては人口密度がかなり低い国です。

また、多民族国家である点もラオスの大きな特徴です。最大民族はラオ族ですが、50以上の少数民族が共存していて、それぞれが独自の言語・文化・生活様式を持っています。

―民族ごとに異なる文化があるというのは面白いですね。たとえば、どんなものが日常に表れているのでしょう?

西原: たとえば「シン」という巻きスカート。女性たちは仕事のときにこの民族衣装を着るのですが、地域によって柄や織り方、素材が全く異なるんです。首都ビエンチャンでも、地方の手工芸品が集まっていて、雑貨店やマーケットではそれぞれの民族の文化を反映した小物や織物が並んでいます。

他にも、もち米を竹の筒に入れて蒸して出す食文化があって、その竹の容器なども全部手作り。コーヒーの生産も盛んで、国内のカフェでラオス産の美味しい豆が味わえますよ。

教育制度と直面する課題

では、ラオスの教育制度について教えてください。

西原: 教育制度は日本と同じく12年制ですが、初等教育(小学校)が5年、中等教育は前期(4年)、後期(3年)に分かれています。小学校の就学率は近年90%を超えるようになりましたが、退学や中退の問題が深刻です。

―どういった理由で中退してしまう子どもが多いのでしょうか?

西原: 経済的な理由が多いですね。コロナ禍では家計が悪化して親の田舎に戻る必要が出たり、家庭の事情で学校に通えなくなる子もいました。また、教育の「質」の問題もあります。学校に通っていても、学んだ内容が身についておらず、読み書きや計算ができないまま卒業してしまう子も多いんです。

学ぶ喜びを感じられず、勉強が「わからないから面白くない」と感じることで、次第に通学しなくなる子もいます。だからこそ、単に就学率を上げるだけでなく、授業の中身を充実させ、子どもたちが「勉強って楽しい」と思えることが大切だと思います。

算数教科書の全面改訂プロジェクトとは?

―今、西原さんが関わっているプロジェクトについて詳しく教えてください。

西原: 「ラオス国初等教育における算数学習改善プロジェクト」です。2016年に始まり、約7年間続いてきました。ラオスの小学校で使われていた算数の教科書と指導書を、カリキュラムから見直し、全面的に改訂する取り組みです。

以前の教科書は、教える順序が非体系的で、学びの積み重ねがしづらい内容でした。そこで、日本の教科書や教育カリキュラムの構造を参考にしながら、現地の文脈に合う形で一から組み直しました。

―教科書を作るうえで、どんな工夫やステップがあったんですか?

西原: 教科書づくりは大仕事でした。まずは試作品を作り、数県で1年間使ってもらいます。その後、教師と児童にヒアリングを行い、内容をブラッシュアップ。さらに印刷・配布・研修と、1学年分で約2年かかります。これを1〜5年生分繰り返すので、全体で7年。日本人専門家は常時5〜6人が関わり、現地スタッフとチームで取り組みました。

現場を支える研修の裏側

―教科書ができても、それをどう使うか先生たちに伝える必要がありますよね。

西原: まさにそこが肝心です。新しい教科書は、従来のものと大きく違うので、現場の先生たちに丁寧に説明しなければなりません。私たち日本人が中心になって研修の内容を設計し、理解の深い現地の先生たちと協力してワークショップ形式で研修を行います。

研修のスタイルもさまざまで、中央で行う集中型、地方の学校を回る分散型、日本での招へい研修などがあります。特に日本に来ていただく研修では、教科書会社や文科省の方々から話を聞いたり、小学校の授業を見学してもらったりしました。ある意味“缶詰合宿”のようなスタイルで、原稿が仕上がるまで徹底的に議論する場面もありましたね。

プロジェクト終盤、現地での活動

―今回のラオス滞在はいつからで、どんな活動をしているんでしょう?

西原: 2023年1月中旬から3月末まで、約2カ月半の滞在です。プロジェクトの最終フェーズで、現地研修の実施、進捗報告会議の開催、そしてプロジェクト完了に向けた事務所撤収準備を進めています。

このプロジェクトは、教育省だけでなく外務省など他の関係省庁とも連携していて、年に数回、活動報告の共有と今後の展望を議論する大規模な会議があります。それが無事終わると、次はプロジェクトの“卒業式”のような完了報告です。

カリキュラムはどう変わったのか?

―今回の改革で何が一番大きく変わったと思いますか?

西原: カリキュラムの“骨組み”が整ったことです。それまでは、何をどの順番で教えるかの体系がなく、断片的な学びに終始していました。今回の改革では、算数の基礎から応用までが段階的に積み上がるように設計され、子どもたちが「できた!」という実感を持ちやすくなりました。

こうした積み重ね型のカリキュラムを導入することで、学びの意味や楽しさを実感できるようになり、先生たちの指導にも変化が生まれてきています。

コロナ禍のラオスで、教育はどう影響を受けたのか?

改革の成果が少しずつ現れ始めた中、2020年には新型コロナウイルスの感染拡大という予想外の出来事が、ラオスの教育現場に大きな影を落としました。

―ラオスの現在のコロナ事情について教えてください。

西原: ラオスも日本と同様に「ウィズコロナ」に移行しています。現在は感染者数の公表もなくなり、入国制限も解除され、学校も通常通り開校しています。

ただ、2020年3月からはじめてのロックダウンと休校があり、2021年4月からは再び感染が拡大し、2022年初頭まで半年以上学校が閉鎖される事態となりました。結果的に、約1年間にわたって子どもたちの学びに大きな影響が出ました。

―オンライン授業の対応はいかがでしたか?

西原: 都市部や私立の学校では導入できたケースもありましたが、ほとんどの学校では難しかったです。先生たちにとっても初めての経験で、十分な準備ができたとは言いがたく、通信環境も限られた中での手探りの対応でした。特にラオスの教育は一方通行の講義型なので、オンラインではさらに難しさがあったと思います。

プロジェクトの進行にも影響が…

―教育現場だけでなく、プロジェクト運営にも影響があったのでは?

西原: はい。渡航制限や会議の延期など、物理的な制約もありましたが、特に予算面が大きな課題でした。教科書の印刷や配布は現地政府が費用を負担する仕組みでしたが、コロナで観光業などが打撃を受け、政府財政がひっ迫し、印刷費が出せないという事態に直面しました。

その際は、他のドナー機関と連携し、印刷費用を肩代わりしてもらい、導入研修費用は政府が引き続き負担する、という折衷案で乗り切りました。

―政府との役割分担やドナーとの調整も必要だったんですね。

西原: ええ。また、コロナ支援にどこまで関与すべきかの線引きも難しかったです。本来は中央政府と対話しながら政策的な働きかけをする立場ですが、現場のニーズに対応したくても、直接的な支援には限界がありました。

コロナがもたらしたポジティブな変化も

―一方で、コロナを契機に良かったことはありましたか?

西原: はい、カウンターパートやローカルスタッフのオンラインスキルが飛躍的に向上しました。会議や調査もオンラインで迅速にできるようになり、Googleフォームを使ったアンケートやデータ収集も浸透しました。

今では地方にいる先生と首都ビエンチャン、そして日本の本社をつないだ三者会議もスムーズに行えるようになっています。

プロジェクトに関わる「やりがい」とは

―最後に、西原さんにとってこのプロジェクトのやりがいは何でしょうか?

西原: 一番は、教科書が変わり、それを使った授業で子どもたちの反応が変わったと感じられる瞬間ですね。今まで「先生が一方的に教える」授業から、「子どもが自分で考えて気づく」授業へ少しずつ変わりつつあります。

たとえば、先生がわざと間違った答えを黒板に書き、それを子どもが指摘して学ぶ、そんな授業を可能にする教科書ができたと思っています。

先生たちが「子どもが楽しそうだった」「自分で考えていた」と気づいてくれると、本当にやってきてよかったと実感します。

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