INEEウェビナー「新型コロナ影響下にいる教員たちへの支援」報告

解説:大橋悠紀(コンサルタント)
京都府立大学卒、サセックス大学大学院修了

4月22日に、緊急教育支援の情報ネットワーク(INEE)が、「新型コロナ影響下にいる教員たちへの支援」というテーマで、ウェビナー(ライブオンラインセミナー)を開催しました。新型コロナ感染拡大による学校閉鎖により、子どもたちへの教育の影響・支援の重要性が強調されていますが、非常時における教育の継続、学校再開後に授業を開始するためには、子どもたちへの支援と同様、教員(教育関係者含む)への支援も重要です。以下に、ウェビナーの内容を紹介します。当日のウェビナーは、以下のINEEのサイトから視聴できます。

参照:INEE | Supporting Teachers in Crisis Contexts during COVID-19

新型コロナ影響下での世界の教員の現状

先ず、教職員組合の国際組織である教育インターナショナル(Education International)が、新型コロナ影響下における世界の教員の現状を把握するため、加盟組織に対して迅速な調査を行いました(回答数:103組織)。教員に関する主な課題は、以下通りです。

  •  多くの教員が、必要な機器の提供、技術支援、準備のための訓練なしに、遠隔教育やe-learningを提供するよう求められている。
  • オンライン授業で教員が教え続けなければならない国(例:シンガポール)では、安全対策問題への対策等、教員の労働負担が増加している。
  • 学校閉鎖の影響で、職を失ったり、給与が支払われていない教員がいる(特に、短期間の契約教員など)。
  • 教育の提供方法(ツールやプラットフォーム等)について政策決定がなされる際、教員や教育関係者の視点は考慮されていない。
  • 遠隔教育を提供するために、教員同士での学び合い、知識・経験の共有が求められている。
  • 新型コロナで身内や大切な人を失った児童・生徒や同僚に対する心理的ケア、必要な支援を提供できる力(訓練)が教員に求められている。

 次に、こうした教員の状況を踏まえ、実際にどのような支援ができるかについて、以下の5団体から、教員に関する課題や実施している支援内容が報告されました。要点は以下の通りです。

新型コロナ影響下にいる教員に対してできることは?

米国コロンビア大学ティーチャーズカレッジ(教育学大学院)/准教授Mary Mendenhall氏

主な検討課題と有望な対策

  • 教員は、非常時における重要な利害関係者(ステークホルダー)であることが忘れられがち。教育ワーキンググループ等の教育の核心となる重要な会議で教員の声は必ずしも反映されてこなかった。教育政策の決定や行動計画策定時に、教員の声を反映させるべき。
  • 人々は信頼している教員の意見に耳を傾けるため、健康・衛生管理、学校への復帰等、現在の状況や今後の事についてコミュニティ内に情報を伝える上で、教員は重要な役割を果たす。
  • 教員への心理的・社会的な支援は、この局面において一層大切になっている。学校が再開されたとき、新型コロナにより家族や大切な人を失くしていたり、家庭内暴力などで辛い体験をしたりした子どもたちのケアをすることが教員には求められる。
  • SNSやWhatsApp(メッセージアプリ)などを駆使し、教員に継続的な職能訓練を提供する必要がある。また、家庭学習や遠隔教育を支援するための工夫、教員への心理的・社会的なサポートメッセージ、役に立つリソースの共有のために、こうしたSNSを利用して教員同士をつなぐことも有効な手段である。

War Child (英国NGO)/ Sarah Hartingan氏、April Coetzee氏

新型コロナの影響に対応した活動の適応

  • WhatsAppなどのメッセージアプリを使用し、教員へのサポートグループ、教員と子どもがコミュニケーションをとれるグループを作成し、運用している例もある(例:イラク)。特に、教員へのサポートは、教員たちが自らの安全対策を行い、ウェルビーイング(幸福感)を確保できるように行っている。
  • 慣れないテクノロジーの使用などで教員の労働負担が増えるとともに、不安定な雇用状態などもあり、教員の業務量・不安・ストレスは増加している。これに対処するため、教員のためのウェルビーイング・プログラム(10時間分のワークショップ)を用意し、教員の幸福感を高め、自己の価値を認識してもらうプログラムを提供している。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR) / Charlotte Berquin氏(西・中央アフリカ担当)

UNHCRの教員支援のためのアプローチ 

  • 教員の生活を守るためだけでなく、学校再開後の教員不足を防ぐために、教員の給与支払いを行っている(例:ブルキナファソ、チャド、リベリア、モリタリア、ギニア、ソマリア)。
  • チャド東部の難民キャンプでは、地区ごとに教員が組織され、子どもたちに宿題を提供し毎週回収している。
  • リベリアの難民キャンプでは、コンピュータ室を設ける予定であり、教員がオンラインで教材にアクセスできるようにし、子どもへのオンライン授業の準備ができるようにする。
  • ケニアのカクマ難民キャンプでは、教員と生徒への教育コンテンツと健康に関する情報提供のために、WhatsAppを利用した学習サークルを立ちあげて運営している。インドネシア、スリランカ、マレーシアでは、教員間でWhatsAppグループが立ち上がり、教育コンテンツの共有などを行っている。
  • 学校再開後の支援として、状況に応じた教員訓練の提供(心理的・社会的支援や健康管理等を含む)や、遠隔教育のための学習教材・デジタルリテラシー(デジタル化された情報の活用能力)向上のためのプログラムの利用及びデジタルインフラの整備支援を検討している。

 参照:UNHCR Emergency Handbook

国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA) / Caroline Pontefract氏、Frosse Dabit氏

UNRWAの教員支援のためのアプローチ 

  • パレスチナでも、第2学期が半分終わった3月より、全校休校措置が始まった。
  • テレビでの自主学習プログラムを提供(保護者や教員ヘは使用ガイドラインを提供)している。
  • 教員への心理的・社会的な支援として、カウンセリングやレクリエーション活動の機会を提供している。
  • 子どもの学習状況、健康把握、教員の状況などすべてにおいて、モニタリング・評価を行うことが重要である。
  • 我々が行っている一連の対策を記録に残し、非常時における対策システムを構築することが重要であり、また、援助機関で支援が重複しないよう、協働することが大切である。

 国際連合教育科学文化機関 (UNESCO) / Borhene Chakroun氏、 Leila Loupis氏

  • 新型コロナ影響下における教員支援のための行動の呼びかけ
  • 191か国での学校閉鎖(4/22時点)により、6,300万人の教員が新型コロナの影響を受けている。
  1. 政策立案者への提言として:
  2. 教員の雇用と給与を守ること(多くの国で、教員が解雇され、給与が支払われていない現状がある。教員の職、地位、給与を確保することが大切)。
  3. 学校再開を見据え、遠隔教育実施中の教員と学習者の健康、安全、幸福感の確保、社会的・心理的なサポートが重要。
  4. 新型コロナ影響下での、短期・長期的な教育アプローチを検討する議論に教員を含めるべきである。テレビやラジオを活用することも有効で、必ずしも高度なテクノロジーだけが解決策ではない。
  5. 遠隔教育もしくはオンライン教育に対する、適切で専門的な支援及び訓練を教員に提供する。(ある調査では、多くの教員にデジタルスキルがないことが、オンライン教育提供の妨げになっていることが指摘されている。)
  6. 公平さを重視する(例:地方部、低所得国やマイノリティー(社会的少数者)コミュニティの教員、契約教員など)。
  7. 援助機関が行う支援に教員を考慮に入れる。

論考

それぞれの団体の活動場所や重点分野に違いはありますが、ほとんどの報告で共通して、まずは教員の雇用や身分・給与を確保すること、そして遠隔教育提供のためのリソースや技術支援・訓練を提供することの重要性が強調されています。それに加えて、心理的・社会的な面で教員を支える重要性も説かれています。特に、感染症の世界的蔓延という非常時においては、教員に求められる役割は単に授業を行うことだけでなく、感染症から子どもたちの命を守るための知識や様々なストレスに対する心理的ケア、安心感などを与えることが重要となります。とりわけ途上国では、学校に通えなくなる期間が長くなるほど、退学してしまう子が増える傾向にあります。こうした点を防ぐためにも、新型コロナによる休校中も、子どもへの学習面・心理面のサポートを継続できるよう、教員たちを支えることが大切です。

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