新型コロナウイルスに対応するための教育施策への提言

解説:北館尚子(シニア・コンサルタント)
一橋大学卒業、ハーバード大学大学院修了。元UNESCO(国連教育科学文化機関)職員。
 

新型コロナウイルスの影響による学校閉鎖や移動制限により、世界中で子供たちの学校での学習が中断されるという深刻な状況が続いています。こうした前例の無い事態に直面している各国の政府や教育関係者が、どのように子供たちの学びの機会と環境を確保すれば良いのかについて、専門機関が相次いで様々な指針や提言を発表しています。

4月2日に経済協力開発機構(OECD)はハーバード大学のグローバル教育イノベーションイニシアチブと共同で、98カ国での新型コロナウイルスに対処するために実施されている教育政策をレビューした調査報告書を発表し、その中で以下の25項目の提言を行っています。

新型コロナウイルスに対する教育施策のためのチェックリスト 
  1. 新型コロナウイルスに対応した教育対策のための計画・実行に責任を持つタスクフォースまたは運営委員会を設置する。
  2. 社会的距離の確保等の必要性に応じたタスクフォースの協議の頻度や方法を策定する。
  3. 教育対策における基本的な原則を定義する。
  4. 保健医療関係機関との連絡と調整のための仕組みを作る。
  5. カリキュラム目標の優先順位を現状に合わせて見直し、社会的距離の確保が必要な期間中に何を学ぶべきかを定義する。
  6. 社会的距離の確保が必要な期間の終了後、どのような方法で失われた学習時間を取り戻せるかの方策を検討する
  7. オンライン等での子供たちへの学習機会の提供手段を策定し、必要な機器や手段の確保のために民間や地域のパートナーとの連携も検討する。
  8. 新しい状況下での教員の役割と責任を明確にし、適切に生徒の指導と支援を行えるようにする。
  9. 教員、生徒、保護者に対して必要な情報を伝達するためのウェブサイトを立ち上げる。
  10. オンラインでの教育提供が困難な場合にはテレビやラジオ等その他の方法を策定し、必要であれば民間や地域のパートナーとの連携も検討する。
  11. 対策措置の実施にあたっては、恵まれない立場にある子供たちや家庭の事情に配慮した十分な支援を確保する。
  12. 子供たち同士がコミュニケーションや協働をしやすくするように務め、子供たちがお互いに支え合えるよう支援する。
  13. 新しい状況下で教員と保護者が適切に子供たちの学習を支援できるよう、教員と保護者のための学習指導サポートの仕組みを立ち上げる。
  14. 対策措置期間中の学習成果を適切に評価する方法を策定する。
  15. 進級と卒業に関する適切な仕組みを策定する。
  16. 対策措置に応じて、授業時間数の認定などの既存の規定や規則を改定する。
  17. 各学校ごとに運営継続計画を策定する。
  18. 学校が給食を提供している場合は、子供たちと保護者に食事を提供する代替方法を検討する。
  19. 学校が心理的サポート等の社会的なサービスを提供している場合、そのサービスを提供する代替方法を検討する。
  20. 学校は携帯電話等を通じて子供たち一人一人と毎日連絡を取って状況を確認する方法を確立する。
  21. 学校は教員及び職員と毎日連絡を取って状況を確認する方法を確立する。
  22. 学校はインターネットや電子機器の適切で安全な利用方法についての指針を子供たちと保護者に提供する。
  23. 他の学校や組織との定期的な交流を図り、課題解決や実施措置の改善のための情報交換を行う。
  24. 学校の管理責任者が必要な財政的、事務的、心理的なサポートが得られるように配慮する
  25. コミュニケーション計画を作成し、対策期間中を通じて対策措置に関わる主要関係者及び必要な情報を特定し、複数の媒体で円滑に情報共有が行われるようにする。

参照:OECD | A framework to guide an education response to the COVID-19 pandemic of 2020

また、4月9日に緊急教育支援の情報ネットワーク(INEE)、セーブ・ザ・チルドレン、国連児童基金(UNICEF)は共同で提言書を発表し、各国政府及び援助機関に向けた新型コロナウイルス危機における子供たちの学習継続に関する以下の提言を表明しています。

新型コロナウイルス危機の最中及びその後の子供たちの安全と学習を維持するための提言

  • 学校閉鎖中であっても全ての子供たちが学習を継続できるよう、各国政府や援助機関は学校及び教員を支援し、緊急的な遠隔教育のための教材や活動を開発する。
  • 子供たちの福祉を保護するため、対策措置の中に子供たちの身体的及び精神的な健康のための支援と心理社会的な支援を統合する。
  • 学校閉鎖が教育格差を助長することがないよう、社会的に疎外された子供や若者のニーズに配慮する。
  • 紛争、人道的危機、強制国内避難などに瀕している子供や若者の固有のニーズに対応した支援をする。
  • 教員と保護者の福祉及び経済的な安定に配慮する。
  • 学校再開の準備に向けた教育システムの強化を図る。
  • 全ての子供達に教育を継続的に提供するために教育予算を維持し増大する。

 参照:INEE  | Learning Must Go On: COVID-19 Advocacy Brief

4月30日には、国連教育科学文化機関(UNESCO)、国連児童基金(UNICEF)、世界食糧計画(WFP)、世界銀行(World Bank)が、休校措置後に学校を安全に再開するためのガイドラインを発表し、学校再開を検討する上で以下の6つの次元の検討を提言しています。

学校再開に向けたガイドライン

  • 政策改定:関係する全ての領域を網羅した政策の見直しと改定を行う。
  • 財政的需要:新型コロナウイルスの教育への影響をし、教育システムの強化と強靭化に必要な財政的投入を行う。
  • 公衆衛生的に安全な作業手順:感染を防止しながら、最低限必要な物資やサービスの提供継続を図るための作業手順のプロトコルを策定する。
  • 学習の補完:学校閉鎖によって失われた授業時間を補完するための措置を導入する。
  • 福祉と保護:学校再開に当たって、子供たちの身体だけではなく精神面、社会面も含めた健康と安全への配慮を強化する。
  • 社会的に疎外されたグループへの教育アクセスの提供:学校再開に当たって、これまで不登校だった子供たちが学校に通うことを可能とするような措置を講じる。

参照:UNESCO | Framework for reopening schools

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