解説:鈴木加奈子(コンサルタント)
筑波大学卒、イーストアングリア大学院修了
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、現在途上国を含む全世界で、学校閉鎖や在宅勤務、移動制限など様々な対策がとられています。子どもたちを新型コロナウイルスの感染から守るためには、多くの人が集まる学校は一時的に閉鎖し、自宅で過ごさせる方が安全だと考えられるからです。しかし、この学校閉鎖が、今後、特に発展途上国の女子児童・生徒の教育に多大な影響を与える可能性を、教育のためのグローバルパートナーシップ(GPE)、UNESCO、世界開発センター(国際開発分野の米国シンクタンク: CGD)等が相次いで指摘し、その対策を呼びかけています。
学校閉鎖が女子児童·生徒に与える影響
- 家事・育児負担の増加
いまも多くの国では、家庭内の家事や育児のほとんどを、女性や女子が担っています。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で学校が閉鎖され、家にいる時間が増えると、女性・女子の家事や育児の負担がこれまでに比べて増えることが考えられます。この場合、女子児童・生徒は、家庭での遠隔学習の時間を十分に確保できない可能性があります。 - 家庭内暴力の被害増加
現在、アルゼンチン、フランス、シンガポールなど多くの国で、家庭内暴力やジェンダーに基づく暴力の増加が報告されています。学校の閉鎖や、親の失業、在宅勤務などにより、多くの女性・女子が男性と一緒に過ごす時間が増え、その結果、家庭内暴力や児童虐待などのリスクが増えているといわれています。また、感染拡大防止のための外出制限や移動制限により、虐待の被害者が児童相談室などの外部支援機関に相談する機会が阻まれていることも問題の一つとなっています。 - 女子の早期結婚、妊娠の増加
過去にエボラ出血熱が蔓延した国々でも、感染拡大防止のために学校が閉鎖され、女子児童・生徒は様々な影響を受けました。例えばシエラレオネのある地域では、学校閉鎖により、若年層の妊娠が65%増加しました。また、家計の経済的負担を軽減するために、多くの女子生徒が早期に結婚しました。その結果、学校が再開しても、女子児童・生徒の多くが、妊娠や結婚、経済的貧困などを理由に、学校に戻ることができませんでした。実際に、シエラレオネ、ギニア、リベリアでは、エボラ出血熱による学校閉鎖の後、女子の就学率は低下しています。新型コロナウイルスの感染拡大により学校閉鎖が続くと、多くの国でエボラ出血熱のときと同様に、女子児童・生徒の教育の機会が失われてしまう可能性が指摘されています。
参照:GPE | How to protect vulnerable children, especially girls, during the COVID-19 pandemic?
参照:UNESCO | COVID-19 school closures: Why girls are more at risk
参照:CGD | A New Survey on the Risks of School Closures for Girls
女子児童·生徒の教育機会を失わないために取り組むべきこと
では、女子児童・生徒の教育の機会を失わないために、今後どのような取り組みに力を入れる必要があるのでしょうか。国際協力NGOのマララ基金とプラン・インターナショナルは、学校閉鎖が女子児童・生徒に与える影響を少しでも緩和するため、次のような提言をまとめています。
マララ基金の提言:「新型コロナウイルス影響下のジェンダーに配慮した教育戦略」
- 学校閉鎖期間中も、女子生徒が学習を継続できるよう環境を整備すること。
- 学校の再開計画を策定する際に、ジェンダー配慮の視点を取り入れること。
- 教育への資金援助を継続し、男女が平等にその恩恵を受けられるように取り組むこと。
参照:Malala Fund | Girls Education and COVID19
プラン・インターナショナルの提言:「プランインターナショナルの提言」(教育関連のみ一部抜粋)
- 学校閉鎖期間中も、学習の継続を最優先課題として取り組むこと。最も脆弱な環境にいる子どもたちにも公平な遠隔教育を提供し、教育格差を最小限にすること。
- 男女間の情報格差に配慮すること。遠隔学習にICT教材を用いる場合には、ICT教材を使える生徒と使えない生徒の間のジェンダー格差の是正にも取り組むこと。
参照:Plan International | COVID-19 The impact on girls
論考
新型コロナウイルスが蔓延する前の国際社会においても、特にサブサハラアフリカの国々では、教育における男女間格差が大きいことが指摘されていました(例 初等教育修了率:女子67%/男子70%。15~24歳の若者の識字率:女子74%/男子79%など)。これらの国々で、新型コロナウイルスの影響により学校閉鎖が長期化した場合、上述の様々な問題により、さらに多くの女子児童・生徒が教育の機会を失い、さらに男女間の格差が広がる可能性があります。母親の教育水準が上がると、生涯年収が上がる、子どもの栄養状態が改善される、爆発的な人口増加を抑えられるなど、本人・子どもの生活状況の改善のみならず、国の経済発展にもつながることが分かっています。近年、改善傾向にあった教育における男女間格差を広げないため、そして国連の持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)のゴール4「すべての人々への包括的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」という目標を達成するためにも、国際社会は一丸となり、学校閉鎖期間中にも、すべての児童・生徒の学習が途切れないよう、取り組みを継続していく必要があります。