ユネスコ·ユニセフ·世界銀行共催 「学校再開のためのウェビナー」第3回 「ウェルビーイング(心身ともに健康で幸福な状態)」 報告

解説:大橋悠紀(コンサルタント)
京都府立大学卒、サセックス大学大学院修了

第2回目の内容に引き続き、今回は、標記ウェビナーの第3回目「ウェルビーイング(心身ともに健康で幸福な状態)」(6月15日開催)の内容をお伝えします。4名のパネリストによる発表の要点は以下の通りです。

参照: UNESCO | Joint UNESCO-UNICEF-World Bank webinar series on the reopening of schools 

1. ケアネットワークとMHPSS(精神保健および心理社会的支援)

The MHPSS Collaborative 精神保健・心理社会的支援アドバイザー Dr. Ashley Nemiro

  • The MHPSS Collaborativeは、精神保健および心理社会的支援に関する研究と実践の世界的なネットワークである。
  • セーブ・ザ・チルドレンの調査(英語)によると、およそ4人に1人の子どもが、新型コロナウイルスによる休校や社会的制限により、恐れや不安、ストレスを感じている。
  • 休校中の子どもの教育とメンタルケアのために、教員は子どもや保護者とのつながりを絶やさず、様子を把握すること。保護者も外部とつながる努力をすること。
  • 子どものケアと同様、保護者や教員、地域の人など、子どもを取り囲む大人の健康とケアも重要。
  • 休校が長引くと、学校再開にあたり、緊張したり、登校を渋ったりする子どもが出てくる。教員や保護者はいつどのように学校が再開されるのか正しい情報を子どもに共有し、学校で教員や友人と新たな学びを継続できることを伝える。
  • セーブ・ザ・チルドレン等が作成した「安全な学校再開-実践者のためのガイド(英語)」の附属資料4には、学校再開における子どものメンタルケアについて、専門的な用語を使わずわかりやすい言葉で説明されている。

2. 子どもの福祉と保護ベネズエラの事例 – 

ユニセフ ベネズエラ事務所 教育チーフ Mr. Andres Felices Sanchez

  • ベネズエラは3/16から休校。休校中の子どもの学習面でのサポートや心理的ケアを目的とし、政府は「Each Family School」というプログラムを開始。
  • 上記プログラムでは、教育コンテンツのほか、ユニセフの協力でメンタルヘルスや社会心理的支援、SEL(社会性・情動スキルの教育)に関するセミナーを提供。肯定的な行動、感情的なバランスの保ち方、家族の価値などの内容を、TV、ラジオ、ソーシャルネットワークで配信。
  • 休校中の学習を促進するためには、コミュニティーや保護者の関与が重要。上記プログラムの一環として、学校の掲示版や国際新聞に日々の学習課題を掲載し、保護者が家で子どもの指導をしやすくするなどの工夫をしている。
  • ユニセフは、教育省職員、市民団体向けにも、メンタルヘルスや心理社会的支援について、パイロットトレーニングを提供する予定。
  • ベネズエラでは多くの子どもが学校給食を頼りにしているため、ユニセフは休校後も、食料パック(豆、米、小麦、粉ミルク、油、砂糖、塩など)を各家庭に配布している。
  • 上記に加え、石鹸やウイルスから身を守るための参考資料、学習に必要な用具等も配布している。
  • 教員が自己管理や心理的ケアについて学べるよう、ユニセフは遠隔での教員への研修とインセンティブ(現金給付)をセットで提供する予定である。

3. 学校保健と栄養 

ユネスコ 健康・教育分野チーフ Mr. Christopher Castle

  • タイの子ども・若者カウンシル(CYCT)の調査(6771人の若者が回答)によると、新型コロナウイルスの影響により若者が抱える不安の主なものは、ストレスやモチベーション低下などメンタルヘルスに関すること(74.58%)、家族や自分の経済状況に関すること(84.66%)であった。
  • 上記の調査より、LGBTQIなど性的マイノリティーの若者は、他の若者に比べ、より孤独感を感じていることが明らかになった。
  • 学校保健は、世界共通の項目(例:性教育や感染症予防)と、国ごとに必要な項目(例:寄生虫駆除)があるため、その国のニーズに合わせた内容で推進することが必要。
  • 子どもたちの教育と健康を維持するために、いくつかのリソースが紹介された。(以下、参照)

参照:
UNESCO Institute | UNESCO’s top tip’s for studying in lockdown – in one short video (学びを止めないためのコツを説明した短編ビデオ)

UNESCO | Health & nutrition during home learning(休校中の健康と栄養について解説)

UNESCO| Maintaining leaner health and well-being during school closure and reopening(4月末にUNESCO主催で開催されたウェビナー。休校中・学校再開後における子どもの健康と幸せについても取り扱っている)

UNICEF | Safe to Learn during COVID-19 (学習環境における子どもへの暴力を阻止するための政府への推奨事項)

UNESCO | Supporting teachers in back-to-school efforts: guidance for policy-makers (学校再開にむけての教職員への支援について政策決定者向けのガイダンス)

4. 新型コロナウイルス時代の学校保健と栄養

国連世界食糧計画(WFP 学校給食部長 Ms. Carmen Burbano

  • WFPの調査(英語)によると、新型コロナウイルスの影響により、最も多い時で約3億7千万人の子どもたちが学校給食にアクセスできなくなった。特に、アフリカや中東、低所得国では、学校給食がなくなったことによる子どもへの影響は大きい。
  • 学校給食は、子どもたちが学校に戻るきっかけになるだけでなく、命やコミュニティーを守るセーフティネットにもなる。
  • 学校が休校になったことにより、マダガスカルやチャドでは、学校給食を持ち帰りの配給に切り替えた。シリアでは、食料と衛生用品のバウチャー(引換券)を提供した。
  • 学校給食プログラムが重要な理由は主に4つあり、それぞれの分野で次の効果が確認されている。①教育(就学率9%増、出席率10%増。特に女子の就学率は12%増)、②健康・栄養(女子の貧血が20%減)、③農業(地元農業・地域経済の活性化)、④社会保障(給食は家計収入の10%を補う)。
  • 学校給食プログラムは、上記4分野をはじめとする分野横断的なタスクであり、分野をまたいだワーキンググループやフレームワークの形成が必要である。ラテンアメリカとアジア諸国から得られた教訓では、財務省や計画省も関わるとより良い成果が得られることが確認された。

論考

途上国を中心とした世界の休校中の状況について、弊社が保護者等を対象に実施した調査(有効回答数:52、6/16時点)では、「学校や教員は大切だと思いますか」という質問に90%以上の保護者が「はい(Yes)」と答え、その理由として、多くの保護者が、学校や教員は学習面での成長はもちろんのこと、社会的な成長や他者とのつながりを提供する場(存在)であると捉えていることがわかりました。このことからも、休校により友人や教員との交流、さまざまな教育活動の機会を失った子どもたちのストレスや不安は非常に大きくなっていると思います。休校中や学校再開後、子どもの様子や変化を把握し、必要なサポートを与えるためには、保護者や教員をはじめとする身近な大人の存在が非常に重要です。一方で、大人たちも様々な不安の中を生きており、新型コロナウイルスによる社会への影響が長期化することを考えると、子どもを見守る大人たちも不安やストレスとうまく向き合い、心身の健康を維持していくことが大切になると思います。

学校保健や学校給食プロジェクトに関して、最後のBurbano氏の発言でもあったように、教育の改善と学校保健・学校給食は二者択一ではなく、セットで十分な予算を配置し推進していくべきものであると思います。また、新型コロナウイルス感染防止対策も含め、より一層、学校での健康・精神保健指導が充実されていくことを願います。

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