ユネスコ·ユニセフ·世界銀行共催 「学校再開のためのウェビナー」第4回 「弱者配慮/包摂性」 報告

解説:大橋悠紀(コンサルタント)
京都府立大学卒、サセックス大学大学院修了

第3回目の内容に引き続き、今回は、標記ウェビナーの第4回目「弱者配慮/包摂性」(6月24日開催)の内容をお伝えします。4名のパネリストによる発表の要点は以下の通りです。

参照:
UNESCO | Joint UNESCO-UNICEF-World Bank webinar series on the reopening of schools 

1. 2020年度版グローバル・エデュケーション・モニタリング・レポート「インクルージョン(包摂性)と教育」

ユネスコ シニア政策アナリスト Mr. Kate Redman

  • 2020年度版グローバル・エデュケーション・モニタリング・レポート 「インクルージョンと教育」(英語)が、6/23にユネスコより公表された。今回のレポートのキーワードは、”All means All”(すべてとは全員を意味する)であり、子どもたちを教育システムに適合させるのでなく、教育システムがすべての子どもたちのニーズに適応していく必要があることを強調している。
  • 新型コロナウイルスによる休校で、ピーク時には194ヵ国で世界の90%の学習者たちが影響を受けた。コロナ・パンデミック以前から社会的に排除されてきた子どもたちへの影響は甚大である。
  • 低・中所得国のうち40%は、教育分野における新型コロナウイルス対策として、不利な立場に置かれた学習者をターゲットにした教育施策(地方に住む子ども、障害を持つ子ども、言語的少数派の子どもたちへの配慮等)を実施していないことが判明。
  • 休校中、遠隔教育プログラムが推進されたが、すべての子どもを包括する内容となっていないことが多い。また、低所得国では、テレビやラジオプログラム等それほど高いテクノロジーを要しない手段で教育が提供されることが多いが、それらでさえすべての子どもに届いているわけではない。
  • 休校中の教員から子どもへのコンタクトについて、フランスの教員でさえ、休校後3週間で自身の生徒のうち8%と連絡が途絶えていた。このことから、貧困国やインターネット環境等が整備されていない地域では、教員から子どもへの連絡はより難しくなる。
  • 68%の国が「包摂的な教育」の定義を持っているが、そのうち25%の国が「包摂的な教育=障害を持つ子どもたちへの教育」と捉えている。多様なグループや自我同一性を含めた、より広い視点で包摂的な教育を考えることが重要。
  • カリキュラムや教科書も作成段階からユニバーサルデザイン(障害の有無などに関わらずたくさんの人々が利用しやすいように製品やサービスをデザインする考え方)とする必要がある。(例:すべての子どもたちがアクセスできる柔軟で関連性のあるカリキュラム、ステレオタイプや特定の情報の排除がない教科書、あらゆる方法で子どもを評価するなど)
  • 教員自身も偏見やバイアスを持たないようにする、校長はすべての子どもを受け入れる学校の雰囲気を作るよう努める。

2. 学校再開 – もっとも脆弱な立場の子どもたちが学校に行くために – 

ユニセフ シニア教育アドバイザー Ms. Wongani Grace Taulo

  • 長期間の休校は、もっとも脆弱な立場にいる子どもたちにとって、退学、学習機会の喪失、子どもへの暴力(10代の妊娠、児童婚、児童労働、心理的トラウマ等)などの問題に関して深刻な結果をもたらす。特に女子児童・生徒は影響を受けやすい。
  • ユニセフでは、女子や最も脆弱な立場にいる子どもたちをターゲットに据えた「学校に戻ろうキャンペーン」(”Back to School Campaign”)を実施。学校再開にあたって授業料/試験料免除による経済的負担の軽減、民族的・言語的少数派や障害のある子どもへの教育的配慮、健全で安全な学校のイメージの発信等を行っている。また、学校再開前に保護者・教員・学校管理職とで協議を行い、共同で学校再開に向けた準備を進めている。
  • 子どもがスムーズに学校に戻れるよう、就学登録に必要な書類の柔軟化(特に難民や避難民など移動を強いられる子どもたちを対象)、代替としてのノンフォーマル教育の活用、入学試験の柔軟化/省略、退学しそうな子どもの出席状況の追跡等を行っている。貧困国では、学校給食の提供も子どもたちが学校に戻るための鍵となる。
  • 休校中の学習機会の喪失に関しては、子どもたちの学習ニーズに応じた補習/補強授業、集中講義などの提供が必要。

3. 新型コロナウイルスへの対応 – 包摂的な学校再開に向けての戦略と介入 –

世界銀行 インクルーシブ教育分野リーダー Ms. Hanna Alasuutari 

  • 遠隔教育の普及によりデジタルデバイド(インターネット等のICT技術を利用できる者とできない者との間にもたらされる格差)が問題になったため、ブレンド型学習(対面式授業とオンライン学習との組み合わせ)や、学校を無料で開校するなどの対策が取られた。
  • 学校再開の段階では、子どもが継続して学校に通える対策(退学防止、学校での保健・安全対策、教育格差に対応できる教員の準備、不利な立場に置かれた子どもへの経済的支援等)が必要。
  • 長期的な教育システム改善の段階では、教育における新型コロナウイルス対策で効果的だったものをスケールアップさせる(例:遠隔教育の活用、個々のレベルに応じた指導、退学リスクのある子どもの追跡等)、教育予算の確保と増加などが重要。
  • 学校再開時の中退防止策として、ガーナやルワンダでは、特に障害を持った子どもたちが学校に戻れるようコミュニティーへの働きかけや意識向上の取組を行っている。
  • 教員が包摂的な教授法を習得するために、現職教員研修の実施や個別ニーズに応じた集中的な支援が重要。専門家、保護者・地域住民による教員への支援も活用する。
  • 学習におけるユニバーサルデザインを意識する。
  • 正規教育プログラムは障害を持った学習者をはじめすべての学習者に向けてデザインする必要がある。

参照:
World Bank | World Bank Group Commitments on Disability-Inclusive Development 
World Bank | Environmental and Social Framework
World Bank | Disability Inclusion and Accountability Framework

4. モンテネグロの事例

ユニセフ モンテネグロ事務所 Ms.Maja Kovacevic 

  • モンテネグロでは3月中旬から全学年において休校が開始された。その1週間後には、教育省の主導でテレビでの遠隔授業配信システム、教員によるSNSを用いたオンライン学習のフォローアップ体制が整えられた。
  • 休校中ユニセフは、Special Olympics(知的発達障害のある人たちの競技会を開催する国際的なスポーツ組織)と協働で、障害を持った就学前の子どもに対して”Young Athletes Program”を実施し、自宅で保護者が子どもたちのコーチになれるよう支援。
  • ユニセフは、教員に対し障害を持つ子どもたちをどのように遠隔で支援できるのか参考となる資料を配布。
  • ユニセフは、学習に困難を抱える子どもたちに対しピア・ラーニング(協働学習)を促進している。また、政府の遠隔教育が提供されない0~6歳の子どもには、ゲームなどが含まれたビデオ教材、親を対象とした子育てプログラムを提供。
  • そのほか、避難民の子どもたちに対しては遠隔教育に必要な機器の提供、テレビやインターネットにアクセスできない子どもたちへは紙ベースの教材を提供。

論考

本セミナーでも言及されましたが、最も脆弱な立場に置かれた子どもたちへの長期間の休校がもたらす影響やその対策は、2014~15年に西アフリカでエボラ出血熱が流行した時の経験から学ぶことが多いと思います。当時、シエラレオネ、リベリア、ギニアではエボラ出血熱の大流行を受けて6~8ヵ月間学校が閉鎖され、約500万人の子どもたちの学びが中断されました。休校中に10代の女子の妊娠や児童婚、虐待や児童労働などの問題が増加し、学校が再開してもすぐにそうした子どもたちが学校に戻れるわけはなく、多くの退学者を出しました。このことからも、学校再開時には、特に不利な状況に置かれた子どもたちにターゲットを絞った対策が必要だと思います。

また、経済的に困窮した家庭の子どもが学校に戻るためには、学校再開時の経済的負担を減らすことが鍵になるようです。本セミナーでも数名のパネリストが、授業料廃止や現金給付などの経済的支援は即効性があり、親が子どもを学校に戻すきっかけになると述べていました。エボラ出血熱流行時も、シエラレオネでは学校再開後2年間は授業料/試験料を廃止しました。この取組の効果もあってか、初等・中等教育における総就学率は2017年にかけて徐々に回復しました。このほかにも、貧困家庭の子どもが学校に戻れるよう、学習教材の無料配布、学校給食プログラム拡充といった対策も取られました。学校再開時には配慮が必要な子どもたちに焦点化した対策を行うと共に、それらの子どもたちが学び続けられるよう、長期的な視点に立った教育システムの改善が必要になると思います。

参照 :
World Bank | Back to School After the Ebola Outbreak
UNICEF | Lessons from Ebola: how to reach the poorest children when schools reopen
World Bank | Data School enrollment, primary / secondary (% gross) - Sierra Leone

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