【開催報告】2022年1月国際シンポジウム :The Japanese Model of Holistic Education in the International Context

世界各国で日本の全人的な教育モデルに携わる研究者、企業の方々、政府関係者、学校の先生方などを招き、「国際的コンテキストでの日本の全人的な教育のモデル」をテーマに国際シンポジウムを2022年1月29日に開催しました。


開催日時:          2022年1月29日(土) 11:30~16:00(JST)
共  催:          文京学院大学恒吉研究室、株式会社パデコ(EDU-Port調査研究事業)
協  力:          東京大学教育学研究科学校教育高度化・効果検証センター、文京学院大学女子中学校高等学校
後  援:          国際協力機構(JICA)
使用言語:          英語
参加者数:          約150名(事前登録者数196名)

プログラム・講演内容:

【第一部】日本の教育モデルの輸出・移換

開会挨拶
(恒吉僚子 文京学院大学副学長・特任教授)

現在世界的に関心が高まっている日本の全人的な教育モデル、特にその中でも日本の「特別活動(特活)」がTokkatsuとして海外にて取り入れられていること、また、今後の特活のボトムアップな発展は、同じく日本の教育の特徴である授業研究(Lesson Study)と関係が深く、それぞれの国での文化的、社会的な背景の中で、全人的な教育カリキュラムを開発していくため、今回のシンポジウムでの情報共有・ネットワーキングへの期待が開会のご挨拶として述べられました。

授業研究(Lesson Study)と日本式の全人的な教育
(Catherine Lewis Milles大学教授)

最初にLesson Studyの特徴の説明があり、アメリカ・サンフランシスコにある小学校でのLesson Studyの実践や、教員同士や外部との連携を通じた教員の意識の変化や授業実践方法の変化の報告がありました。また、日本の特活や全人的な教育とLesson Studyの関係性として、子ども同士の話し合いのプロセスを大切にする点が挙げられました。Lesson Studyの実践によって、子どもと教師双方の学びあい、長い時間をかけて生徒・教師間、教員同士の信頼関係が培われていくことで、教師が掲げる将来に向けた大きなビジョンに近づくことができることが述べられました。

日本式の全人的な教育と教育開発
(北村友人 東京大学教育学研究科教授)

古くから多くの国で教育の借用が行われてきたことについて触れられ、EDU-Portニッポンの授業をナレッジディプロマシーの観点から、日本の教育モデルの輸出において、相手国と対等で公平なパートナーとして、それぞれのニーズに基づいた実践を行っていくことの重要性の説明がありました。また、日本の全人的な教育の輸出は、民主主義社会での自立した市民を育成するという国際的な潮流の中で、その一歩となる点が述べられました。最後に、日本のモデルを輸出するだけでなく、海外からのフィードバックをもとに日本の教育も改善を続けていくことに期待が示されました。

全人的な教育の普及-JICAの協力について
(田中紳一郎 独立行政法人国際協力機構(JICA)国際協力専門員)

全人的教育に関するJICAの協力(エジプト、マレーシア、ヨルダン)の経験から、教育モデルの正統性に過度に執着せぬよう注意し、相手国の教育実践の形式と本質にモデルの意義がどのよう表現されるか、柔軟かつ継続的に理解することの重要性を述べられました。また、全人的教育や非認知スキルの測定は困難と思われがちだが、心理学が長く使ってきた指標が多いので追加的な難しさは少ない、しかし測れるからといって「全人性」を評価すべきとは考えにくく、まずは効果測定の経験蓄積が重要であるとお話しされました。

【第二部】全人的な教育の現地モデル化

2021 EDU-Port Japan 研究/全人的教育アプローチから見た日本型公衆衛生教育
(瀬戸口暢浩・岸本紗希 株式会社パデコ)

株式会社パデコにて行われたEDU-Portニッポン調査研究「オンライン特活による公衆衛生・SDGs課題解決教育モデルの開発」の活動内容①オンラインミーティングによる情報共有、②実践事例共有オンラインプラットフォームの開発、③各国との健康・SDGs関連の学習活動の実践、④特活に関する活動事例収集、についての実績を報告しました④の具体事例として、幼稚園の手洗い指導や身体測定の事例、小学校の「コロナ検定」、「健康クラブ」の事例、中等教育段階での文化祭、部活の事例を紹介しました。

フィードバック:日本における公衆衛生教育
(南部和彦 文京学院大学特任教授)

日本の公衆衛生教育は特別活動のうち学級活動に位置付けられていると説明があり、コロナ禍での各教育段階での取り組みが紹介されました。その活動の取り組みの中にはコロナ以前より行われてきたものも多く、教員の努力によりこれまでの活動を少しずつ変容させている点に触れられました。特活とは、思いやりや心遣い、人を助ける心などの態度や価値観の醸成を目指すものであり、子どもたちは幼稚園から長い期間活動を繰り返す中で、公衆衛生にかかる活動を習慣化しているだけでなく、その裏にある態度や価値観も身につけていると示されました。

民間企業の取り組み事例:ベトナム・エジプトにおける日本式の器楽教育
(為澤浩史 ヤマハ株式会社)

ヤマハ株式会社にて実施するベトナム及びエジプトでの器楽教育の実践について報告がありました。導入にあたっては現地のニーズに応じて、現地の指導者を育成する、教員研修にLesson Studyの要素を取り入れるなどの、将来的に現地で持続可能なシステムを構築した点について説明がありました。
音楽には表現方法や解釈の正解がないため、多くの児童が意見を述べ、積極的に授業に参加している様子がうかがえ、教員と児童との双方向な対話型授業となるの良い変容が見られた点が述べられ、器楽教育の子どもの非認知能力への影響の評価方法を検討中であると述べられました。

インドネシアにおける全人的な教育の実践-継続と課題
(Tatang Suratno インドネシア教育大学教授Yohana Dhita Mahayani Dewi St. Yusup小学校校長、 Lidwina Eva Septiani St. Yusup中学校校長)

2017年より日本の全人的な教育モデルを導入しているインドネシア・サント・ユスプ第2バンドン校の実践事例が紹介されました。同校では授業研究と特活を導入しており、授業研究のサイクルを繰り返し実践・検討した結果、生徒の自己認識の育成、社会性醸成ための人間関係やコミュニケーションの育成、生徒の創造的なイノベーションの育成、という3点の目標に対して、プラスの成果が見られたことの説明があり、最後に、今後の展望として生徒委員会を通じた思いやりあるリーダーシップ育成に関する取り組みについて述べられました。

フィードバック:インドネシアの教育改革と特活の導入
(草彅加奈子 東京大学教育学研究科学校教育高度化・効果検証センター教育高度化部門専任助教)

インドネシアにてLesson Studyをはじめとする日本の全人的な教育モデルが広く受け入れられた背景として教育の質改善の流れがあり、統合型カリキュラム、人格形成、生徒中心学習、探求型学習などの要素を含む新しい教育制度に日本の全人的な教育モデルの理念が合致し、特別活動への関心が高まっている背景の説明がありました。また、サント・ユスプの例から、生徒一人ひとりの学びに寄り添うために、生徒の主体性を重んじた教師と児童の学び合う関係を作ることの必要性と、教師と生徒がともに成長できる可能性の指摘がありました。今後サント・ユスプのような私立学校だけでなく、公立学校でも同様に学びの共同体が形成されていくことへの期待が示されました。

エジプトにおける日本式教育-エジプトの教育的背景における特活
(Aziza Ragab Khalifa エジプト教育・技術教育省科学参事官兼EJSプロジェクト・マネジメント・ユニット研究開発チームリーダー)

2018年からカリキュラムに特活が導入されているエジプトでのローカライゼーションの過程と進捗を報告し、エジプトにて特活を実践するにあたっての組織構造と各アクターが連携した実施体制(ガイドライン作成、現地専門家の育成、モニタリング体制の強化、アプリの使用など)、セミナーや研修を通じた今後の普及戦略について説明がありました。また具体的な活動事例としてEJSでは保健衛生に関する活動を含め、あわせて9つの特活の活動を取り入れており、コロナ禍においてもアプリを通じて生徒と教師が交流し、歯磨きや手洗い、毎日の掃除など家庭でも健康や衛生について学びを続けている旨の報告がありました。


今回のシンポジウムを経て、世界中の日本の全人的な教育に携わる方々のネットワーキングのため、情報交換を行うためのメーリングリストを作成しました。メーリングリストへ参加にご関心がある方は、holistic_edu@padeco.co.jpまでご連絡ください。