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2020年3月より休校が続いていましたが、2021年9月12日、約1年半ぶりに学校が再開しました。感染対策のため、再開後も毎日登校するわけでなく、小学校では学年ごとに曜日を分けて登校し、学校での授業と家庭学習(オンライン授業含む)とのハイブリットで進められてきました。
教育の現状(2022/1/31更新)
学校の状況
1年半ぶりに学校再開
バングラデシュでは2020年3月より休校が続いていましたが、2021年9月12日、約1年半ぶりに学校が再開しました。当日、地元メディアでは、子どもたちが期待に胸を膨らませ登校する姿、学友と抱き合う姿が報道されました。感染対策のため、再開後も毎日登校するわけでなく、小学校では学年ごとに曜日を分けて登校し、学校での授業と家庭学習(オンライン授業含む)とのハイブリットで進められてきました。


4か月後、再度休校
国内の感染増加を受け、再開からわずか4か月後の2022年1月21日、政府は一部大学を除くすべての教育機関を再度閉鎖することを決定しました。期間は2月6日までの2週間としていますが、開始時期はその時の感染状況により決定するとしています。

学習への影響は計り知れず
1年半以上に及ぶ休校は子どもたちの学びにどのような影響を与えているのでしょうか。
国内32県(全64県中)に住む1,806人(8-14歳)の児童・生徒を対象にADBが実施した調査によりますと、コロナ前は1日最低4.5時間確保されていた学習時間は、2021年8月時点で1.6時間に減少したといいます(2020年8月で19分)。政府によるTV授業の放映、教師によるオンライン授業の提供などもされていますが、その恩恵を受けられるのは限られた子どもだけです。上記調査では46%の子どもがテレビやスマートフォン等の機器がないことを理由に、遠隔教育に一度も参加しなかったと回答しています。休校中の教師による連絡やサポートも限定的です。
毎年11月に実施される初等教育修了試験は感染拡大を理由に2年連続中止されました。児童の学力を正確に把握する手段がありませんが、失われた学びは取り返しがつかないほど深刻と予想されます。学校閉鎖が学びに与える影響についてUNICEFは学年が低いほどその影響が大きいとし、低・中所得国の場合、基本的な読み書き能力を身に着けていない子ども(10歳)の割合が、コロナ前と後では53%から70%にまで上がると報告しています。
就学率の低下も懸念
休校が長くなるにつれ、学校に戻らない児童が増加すると予想されます。バングラデシュの初等教育における純就学率は、2020年(休校前)で97.8%(男97.4%、女98.3%)と、60~70%だった1985年後半から飛躍的に改善しましたが、長期の学校閉鎖により就学率は大幅に下がっていると予想されます。休校が長引くと、学校や学習への興味やモチベーションを失う児童が増えていることも報告されています。(ADB 2021)さらに、児童労働、暴力、結婚・妊娠など、学習以外の様々なリスクにさらされる可能性も高くなり、子どもの心身の健康や幸せが脅かされています。
この危機的な状況に対応するため、プロジェクトではより一層政府との連携を強化しながら、様々な活動を進めています。本プロジェクトでは、休校中の児童の学習機会を保証するため、テレビ放映用算数映像授業(小学校1~5年生)の開発支援をしました。現在は、テレビだけでなくYouTubeやfacebookにもアップロードし、より多くの児童が視聴できる方法を模索しています。また、児童だけでなく、教員がいつでもどこでもわかりやすい教材にアクセスできるよう、教員向け指導書のデジタル化、教員の継続的職能開発用のデジタル教材開発なども支援しています。
World Bank “World Bank Open Data (WOBD)”(2022/1/30)
UNICEF “COVID-19: Scale of education loss ‘nearly insurmountable’, warns UNICEF” (2022/1/24)
Dhaka Tribune “Educational institutions closed for two weeks amid Covid surge” (2022/1/21)
UNESCO “The pandemic’s impact on enrolment is yet to unfold”. (2021/12/14)
ADB “ADB Briefs Impact of COVID-19 on Primary School Students in Disadvantaged Areas of Bangladesh” (2021/11)
The Daily Star “No PEC exams this year due to Covid-19”(2021/10/17)
UNESCO “UNESCO warns 117 million students around the world are still out of school” (2021/9/16)
MoPME & DPE “Annual Primary School Census 2020 Final Report”
政府の対応
(1) TV授業の放映
休校期間中、政府は国営放送(Sangsad TV)にて、初等教育と中等教育を対象とした教育プログラムを放送しています。本プロジェクトにおいても、バングラデシュ政府の「新型コロナウイルス感染症対策・復興計画(COVID-19 Response and Recovery Plan)」に基づき、2020年10月より小学校1~5年生のTV放映用の算数映像教材の開発を支援しています。この算数映像教材では現行教科書に沿って授業を展開しているため、休校下でも映像教材と教科書があれば、一緒に学ぶことができるようになっています。
※本プロジェクトが開発支援する算数映像教材は、以下よりご視聴いただけます。
https://www.facebook.com/Rupantar-Kotha-from-Bangladesh-PEDP-IV-314207038668042
(プロジェクトfacebookページ「Rupantar Kotha from Bangladesh PEDP IV」)
本教材は初等教育訓練局(Directorate of Primary Education)と現地プロダクション会社とが共同で開発しており、プロジェクト専門家は撮影する授業のスクリプトや授業案の作成、撮影時の立会いや編集時の助言等を行っています。
プロジェクト現地スタッフからのモニタリングによりますと、算数映像教材含むテレビ授業は国営放送にて放映されているものの、バングラデシュ全土をカバーしているわけでなく、視聴できない地域も一部あるとの報告を受けています。また、放映スケジュールを事前に全ての児童に知らせることが難しく、放送と学習のタイミングを合わせることが困難といった課題も挙げられています。こうした現状を踏まえながら、プロジェクトではより多くの児童・教員に映像教材を届けられるよう、映像教材の様々な活用場面についても検討していく予定にしています。

(2) オンライン授業の様子
休校期間中、独自にオンライン授業を提供している学校もあります。プロジェクト現地スタッフが一部地域で実施した聞き取り調査(※1)によりますと、教員はGoogle Meetやスマートフォン、facebook messenger等を使い、週3~6回の頻度でオンライン授業を提供しているようです。しかし地方では、安定したインターネットや視聴するデバイスの確保が難しく、オンライン授業を提供することも視聴することもできないといった問題があります。そういった地域では、教員が紙の教材を配布し、回収するといった方法を取っている学校もあります。
(※1)バングラデシュの13地区65人の教師への聞き取り。
文責:大橋悠紀(プロジェクト・コンサルタント)
子どもたちのいま
解説ページにバングラデシュ子どもたちの声を掲載しています。
パデコの取り組み(2022/2/21更新)
コロナ禍における算数映像教材の作成
バングラデシュでは、2021年9月より学校が再開されましたが、新型コロナウイルスの感染者が急増したことにより、2022年1月21日から2月末まで再度休校しています。
コロナにおける学びの支援として、プロジェクトでは、カウンターパート機関である初等教育局(DPE)と協働で、算数映像教材(対象:小学校1年~5年生)を344本開発しました。学校再開後も継続してTV放送されています。
(1)国営TV放送、政府のYouTubeチャンネルにて放送中
作成された算数映像教材は、他教科の映像教材と共に、国営TV放送(Sangsad TV)にて放映されています。放映済みの作品については、教育省(初等教育局)のYouTubeチャンネルにも掲載されているため、TV放送を見逃しても繰り返し視聴することができます。また、プロジェクトのfacebookページにも算数映像教材を掲載しています。
教育省(初等教育局)のYouTubeチャンネル『Learning at Home』
プロジェクトのfecobookページ『Rupantar Kotha from Bangladesh PEDP IV』
(2)算数映像教材で工夫されている点
本プロジェクトは、映像授業の原案となる指導案の作成、撮影した作品の編集・最終化段階での助言、全体の品質管理を支援しました。算数映像教材は、様々な点が工夫されています。例えば、再度ロックダウンとなった場合に備え、児童が室内での長時間の生活に飽きないよう、保護者や兄弟姉妹とできる手や体を使った算数アクティビティが導入されています。また、教師と児童の対話の中で授業が進むよう、教師の発問方法、解法を提示するまでの間の取り方なども工夫されています。
この映像教材は、休校中の学習はもちろんのこと、学校再開後も授業の復習教材として活用することができます。
(3)より多くの児童に届けるために
休校中の学習サポートとして開発した算数映像教材ですが、テレビ放送するだけでは十分ではなく、児童に届けるため様々な対策が必要です。
プロジェクトが独自に実施した調査(※2)によると、定期的に テレビで映像教材を視聴していると答えた児童は470名中72名(15.1%)で、全く視聴していないと回答した児童は40%に上ります。定期的に視聴できない児童のうち約半数が、テレビがない、テレビがあっても放送されているチャンネルが映らないといった理由から、そもそも映像授業にアクセスできないと答えています。また、現在映像教材は夕方5時前後に放送されていますが、該当の時間は家の手伝いなどで視聴できないと答えた児童も17%いました。
2度目の休校を受け、教育省(初等教育局)は本教材を含むテレビやラジオ教材を休校中の授業時間割に入れるよう、各郡の教育事務所、小学校へ指示しています。しかし、上記のとおり、映像教材を放送するだけでは十分でなく、TVやラジオにアクセスできない児童への対処、保護者やコミュニティの理解・協力も不可欠です。そのため、プロジェクトでは、政府と協力して教材の放送スケジュールを周知させると同時に、保護者やコミュニティの学習サポートを促す取組を模索しています。
(※2)全国16県19郡にある政府系小学校27校の児童470名を対象にした調査
文責:大橋悠紀(プロジェクト・コンサルタント)/藤原友昭(コンサルタント・アナリスト)