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保健省が策定したチェックリストに基づいて基準を満たした学校から新学期を順次開始することとなりました。全中学校が授業を開始してから1か月後に小学校の授業開始を許可するとしており、具体的な日程は不透明です。

プロジェクトオフィスの感染予防対策について考えうる限りの方策を立てて業務にあたっています。小学校再開時期が不透明なことから、プロジェクトが作成した休校中の自宅学習用教材が配布、活用されることになりました。
教育の現状(2020/8/13更新)
学校の状況(休業の状況)
新学年開始は7月21日に高校、8月4日に中学校、8月中旬に小学校とされていましたが、高校の開始予定日直前の通達により一律ではなく、保健省が策定したチェックリストに基づいて基準を満たした学校から順次開始することとなりました。結果、予定どおり開始できた高校は半数あまりの約4,000校。今後すべての高校が授業を開始してから1か月間COVID-19感染の問題がなければ中学校、すべての中学校が授業を開始してから1か月間のモニタリングの後小学校の授業開始を許可するとしており、具体的な日程は不透明です。
COVID-19感染は現在も海外からの帰国者を中心に少数に抑えられているとの発表が続いており、経済活動も徐々に再開されている中、また国家顧問が学びを継続することの重要性を訴えたばかりのタイミングでの学校再開日程変更には、学校が感染の中心になるリスクをミャンマー政府が重く見ていることが表れています。日本でも休校が延長された経験からは、「その時々の判断」と受け止めることもできるのかもしれませんが、普段、私達から見ると無理に思えることでもやると決めたら実施する教育省が「できたことにしない」決定を行ったことは、異例ともいえます。無期延期にするわけにはいかないが、無条件に始めることは避けなくてはならない、学習機会の提供と感染リスクの回避との間で意思決定や実際の対応を迫られる関係者の苦慮は想像に難くありません。
中学校と小学校の休校長期化が予想される事態となったことから、授業開始前の学習は課さないとしていた方針も変更されました。プロジェクトで作成した、前学年の学習内容の系統的な復習を閉校期間中に自宅で行えるよう支援するための教材も、活用される見込みです。
政府の対応状況
4,6,10年生の新カリキュラム導入のための対面研修は、オンライン研修に続いて14日間を6日間に短縮して実施されました。
- 5月21日:オンライン教材による自習開始
- 6月5日:オンライン研修開始
- 6月12~13日:ライブ配信によるToT研修
- 6月15日~20日:各タウンシップでの対面研修
新しい4年生カリキュラムの導入研修では昨年度までにトレーナー経験のある先生方を中心にタウンシップごとの研修を実施し、実習や参加者どうしのディスカッションに制約はあったものの、当初予定していた内容とほぼ同じプログラムを凝縮して伝えることができました。
子どもたちのいま
プロジェクトでは新カリキュラムを紹介するウェブサイト上に設置したアンケートにコロナ下の子どもたちの状況について尋ねる設問を追加し、ミャンマーの皆さんの声を募集しています。これまで寄せられたご意見をご紹介します。
最近の子どもたちの様子については、以前のように学校に行きたがっている、いつ学校が開くの?と質問されたという声もある一方で、学校に行くのが心配と言っているという声も寄せられました。
子どもたちの状況への懸念に関しては、マスクをずっとつけさせておくことや、友達と遊びたい子どもたちにソーシャルディスタンスを保たせるのが難しいことから感染のリスクが心配という声が寄せられました。
また、新型コロナ禍による規制が続く中での家庭学習については、インターネットへのアクセスがある家庭ではオンライン学習に子どもたちが興味をもって取り組んでいるという声がありました。一方で、インターネットへのアクセスがない家庭も多いことから、無料でインターネットへのアクセスを確保してほしい、学校の閉鎖が続くようであれば教科書を先に配ってほしい、という意見もありました。
また、家庭学習では子どもたちの集中力を継続させることや、協同的に学び、協力しあう心をはぐくむのが難しい、という「教育への質」についての不安も聞かれました。
学校再開後についての意見もあり、もし、2部制などが取られた場合は教師の負担が増加してしまうことへの懸念や、感染防止のために必要な備品を整えることが必要、といった声が寄せられています。
プロジェクトでは今後もウェブサイトやFacebook等を活用しながら、ミャンマーの方々のご意見を募集し、プロジェクト活動に生かしていく予定です。
文責:大津璃紗(コンサルタント/アナリスト)
パデコの取り組み(2020/8/13更新)

プロジェクトの概要
ミャンマーでは、民主化を支える基礎教育の拡充が重点課題の一つであり、教育省は、学制改革や教員養成の高度化など大規模な教育改革に取り組んでいます。パデコは小学校全学年全教科の新しいカリキュラムの教科書、教師用指導書、評価ツールの開発と全国普及、教員養成校のカリキュラム改訂への教材提供、これらを通した教員養成校教官などの人材育成を包括的に支援しています。
初等教育カリキュラム改訂プロジェクト(CREATE Project)
公式ウェブサイト
Facebookページ
Youtube公式チャンネル
映像ライブラリ:
プロジェクト紹介ビデオ
新カリキュラムテレビCM(和・英 Youtube字幕設定あり)
新カリキュラム広報短編ドラマ(英語字幕) Active編/Creative編
新カリキュラム広報長編ドラマ “Our Hope, Our Future – 私達の希望、そして未来” (日本語字幕)
NHK World/MRTV(英・ミ)”ASEAN Now and Future”から抜粋
参考:
ODA見える化サイトー初等教育カリキュラム改訂プロジェクト
JICAー初等教育カリキュラム改訂プロジェクト
JICA広報誌Mundi特集記事(その1)
JICA広報誌Mundi特集記事(その2)
プロジェクトの現状
カリキュラム開発および、教員養成校カリキュラムに資する教材の開発は、4月から5月の2カ月間、全メンバー在宅勤務にて実施しましたが、6月からは、政府の方針に従い、教育省カウンターパートとプロジェクトスタッフの現地メンバーはプロジェクトオフィス勤務に戻りました。移動制限が緩和されつつあるとはいえ、医療体制が脆弱なミャンマーではコロナ感染は大きなリスクとなります。オフィスの感染予防対策やガイドラインの作成、勤怠管理の例外措置の導入等、安全に業務にあたってもらうために考えうる限りの方策を立て、リスク低減にあたっています。


新カリキュラム導入のためのオンライン研修中には、教育省が用意したオンラインプラットフォーム(MDEP: Myanmar Digital Education Platform)や、その上に設けられたDBE Boxサイトに、プロジェクトにて開発した教科書および指導書、1月から2月にプロジェクトが協力して実施した中央研修の映像やプロジェクトが制作した授業映像が掲載されました。対面研修のトレーナーのための研修はプロジェクトオフィスから配信され、研修モジュールなどの教材の配布もプロジェクトにて行いました。きわめて限られた準備期間でしたが、なんとかタウンシップごとの研修も開催されている様子が、現地のテレビ番組でも連日放映されました。プロジェクトの専門家も日夜遠隔サポートを行いましたが、感染対策を講じながら全国研修を実現させた教育省と学校関係者、プロジェクトのカウンターパートとスタッフのがんばりにはほんとうに感謝です。
学校再開の時期や通学パターンごとの授業日数が明らかになった6月には、教育省の要請を受け、コロナ下の授業時数の減少や感染予防対策をふまえたカリキュラムの調整を実施しました。教科書や教師用指導書に復習や発展教材を含めている教科もありますが、本来カリキュラムに削ってよい部分などありません。また、カリキュラムにおけるすべての学習は授業を中心に構成されています。その中で、授業時間が減るから、感染リスクがあるから、という理由で、見合わせたり自宅学習に切り替えたりする作業は、カリキュラム開発者にとって身を切る思いに違いありません。それでも、まずは子ども達を守るため、そして系統性の保たれた学びを継続させるため、制約のある中でのベストを提供していきたいと思います。コロナ下の学びをどう実現していくのか、感染対策を講じながらの児童中心教育について、わかりやすく伝えるビデオも制作中です。
新しい新カリキュラム広報番組が放映開始されました!
このビデオに登場するような授業はしばらくできませんが、新カリキュラムのコンセプトは変わりません。多くの方々により深くご理解いただく助けになることを願っています。
参考:
新カリキュラムテレビCM(和・英Youtube字幕設定あり)
新カリキュラム広報短編ドラマ(英語字幕) Active編/Creative編
新カリキュラム広報長編ドラマ “Our Hope, Our Future – 私達の希望、そして未来” (日本語字幕)
NHK World/MRTV(英・ミ)”ASEAN Now and Future”から抜粋
休校中の学習支援
教育省は閉校中の遠隔教育や系統だった学習指導は行わないとの意向を表明していましたが、小学校の再開がいつになるかわからない状況になったことから、プロジェクトが作成した休校中の自宅学習用教材が配布されることになりました。途絶えたままの学習を取り戻すお手伝いをできることは光栄である一方、この教材でサポートできる自宅学習は約1か月分ですので、子ども達が学習機会のないまますごす期間がさらに長期化することには変わりありません。都会の裕福な家庭の子ども達は私立校や民間教育機関のサービスを受け、インターネットの恩恵を享受できる一方で、僻地や貧困家庭の子ども達の中には、家事、家業、労働に駆り出され、新学年に学校に戻れないケースも出てくるでしょう。学校に通えるとしても、半年を超える学習状況の差は、新学年の学習に大きく影響してくるはずです。時が経つほどに広がりつつあるこの差を完全になくすことはできませんが、次善の策として、同じ教材を今年度の授業が終わった後、1学年下の子どもたちの復習にも活用していただくことにしています。
その他特筆すべきこと
全学年が終わった後のタイミングだったから、いつもの休みが少し長くなっただけで影響が少なくてよかった、というトーンが多かったミャンマーの休校ですが、ここにきて、いつ小学校の新学年を始められるかわからないという展開となり、関係者の間ではにわかに焦燥感が高まってきました。現状では、学校が開かなければ学校や教員にできることはほとんどありません。また、今学年の授業日数は減り続け、授業が始まったとしてもその後どうやって1年分の学習を詰め込むのか、その圧力は大きくなる一方です。学習内容のさらなる取捨選択、アセスメントをどうするのか、進級の判断をどのように行うのか、そもそも小学校はほんとうに近い将来再開できるのか…。4月以降日本の小中学校が直面してきた問題がより深刻な形でミャンマーの教育に影を落としています。
一方で、危機感を共有できるようになってきたようにも感じています。プロジェクトで作成した休校中むけの教材が配布されることになったのは歓迎すべきことですし、短縮版のカリキュラムなどコロナ下の教育実践をサポートする文書や教材の承認も通常よりも迅速に進めようとしてくれています。教育省もCREATEプロジェクトも、できることに限りがある実感と、それでもできることをやっていこうという意思の両方をもちつつ、日々、今踏み出せる一歩を進んでいます。
ひとつの国の公教育はひとつ、ミャンマーの場合は教育行政も中央集権化していますし、カリキュラムも国定です。民主化や国際化に伴って経済格差が拡大する中で、富裕層が国際水準の教育サービスにアクセスできるようになっていますが、そのような家庭はごく一部です。国じゅうのどの子どもも学習の機会を失ったままにしないという意思を、教育省には是非堅持してほしいと思います。
CREATEプロジェクトでは、5年生のカリキュラム開発が山場を迎えており、教育大臣直々にカリキュラム開発進捗を確認する会議も毎月開催されています。その中でコロナ対策の数々の活動を並行して行うことは、決して容易なことではありませんが、今私達がおかれているのは、緊急援助と開発協力の重なった瞬間です。まだもうしばらく、子ども達の学びを取り戻すための取り組みは続きます。持てる資源を最大限活用し、できるだけのことを続けていきたいと思います。
文責:宮原光(プロジェクト・コンサルタント)