データで見る世界の学校再開の現状

解説:杉山竜一(プリンシパル・コンサルタント)
東京学芸大学卒業、同大学院修了。上智大学・グローバル教育センター・講師

政策分析が得意な弊社コンサルタントの、文献調査を基調とした重厚な解説が続いていますので、今回は少し視点を変えて、学校閉鎖にまつわるデータを眺めてみることにしましょう。

世界の学校は今どうなっているのか?

前日「新型コロナウイルスと人間開発(その2)」で報告したとおり、4月には全世界のほとんどの学校が閉鎖され、世界中の子ども・学生が就学機会を失うという未曾有の事態を経験しました。

しかしながら、ここにきて明るい兆しも見え始めています。5月25日に緊急事態宣言がすべての解除された日本では、翌週6月1日から全国で学校が概ね再開されました。また当サイトのイベント情報でも既報の通り、6月8日からは、ユネスコ、ユニセフ、世界銀行共催の、「学校再開のためのウェビナーシリーズ(全5回)」が開催されています。学校再開に向けた準備が加速し、再開ムードの急速な高まりを感じます。日本の皆さまも、前向きな気持ちを取り戻し始めているのではないでしょうか?

全体的には学校再開が進んでいるが・・・

このような我々が感じる「希望」は実態に即しているのでしょうか?
当サイトのトップページでもリンクしていますが、ユネスコは、新型コロナウイルスの蔓延により学校を閉鎖する国が出始めた2月16日から、各国・地域の休校の状況をモニタしています(サイトはこちら)。データ収集対象国・地域は、4月10日に211に達し、以後これら国・地域の学校閉鎖状況を毎日更新し続けています。そのデータによれば、3月末から4月上旬のピーク時には、全国規模で学校を閉鎖する195カ国・地域に及んでいました。

しかしながら、図1に示すとおり、4月13日以降、全国一斉休校する国は徐々に減り始め、6月8日現在、129カ国にまで下がっています(閉鎖/解除措置は基本的に月曜日に切り替わるため、4月13日以降の毎週月曜日のデータのみ参照しています)。青線が全国休校措置をとる国数、赤線が地域ごとに異なる対応をする国数、緑線が全国で学校を再開した国数です。

図1 休校措置ごとの国数の推移

ソース:UNESCO| covid_impact_education.csv (6/8日取得)より著者作成

開発途上国では横ばい傾向

休校解除の動きは、全世界的な傾向なのでしょうか?
国の発展度合いにより医療レベル、上下水道などインフラ整備状況には大きな格差ががあるのが現状です。開発途上国の学校は取り残されていないのでしょうか?

そこで国の発展度合いと学校閉鎖の関係について調べてみました。国の発展度合いの分類方法は、目的・用途に応じていくつかありますが、今回は比較的よく使われ、またそれほど複雑ではない(あまり細切れにしない)世界銀行の分類を用いました。世界銀行は世界218の国・地域を4つの所得グループ(「高所得国」「中・高所得国」「低・中所得国」「低所得国」)に分けています(2019年6月現在:データはこちら)。ユネスコのデータとは205の国・地域が重なっており、これら205カ国・地域を所得レベルごとに分類し、全国で学校閉鎖を継続している国・地域の割合を時系列にまとめた結果が図2です。

図2 全国で学校閉鎖中の国・地域の割合の推移(所得レベル別)

ソース:UNESCO| covid_impact_education.csv (6/8日取得)より著者作成

青線(高所得国)が大きく減少している様子が目を引きます。一方他の所得レベルの国々はあまり変化がありません。つまり、休校措置を解除している国の多くがいわゆる先進国で、残念ながら休校解除の動きは世界的な傾向とは言えないことがわかります。

休校解除は一部地域での事象 ー 格差との戦いの始まりか?

地域別に見るとどうでしょうか?
同じデータを再集計し、全国で学校閉鎖を継続している国・地域の割合を、世界銀行の地域分類に従い地域別に時系列にまとめたのが図3です(ただし北米地域は国数が少ないため、「ラテンアメリカ・カリブ海」地域に含めています)。

図3 全国で学校閉鎖中の国・地域の割合の推移(地域別

ソース:UNESCO| covid_impact_education.csv (6/8日取得)より著者作成

所得格差は「南北格差」としばしば言い換えられることから容易に予想されることですが、休校/開校の傾向は地域ごとに異なることが、このグラフからわかります。大きく減少しているのは「ヨーロッパ・中央アジア」「東アジア・大洋州」など、所得レベルの高い国が多くある地域です。ただし(このグラフから読み取ることはできませんが)大洋州の島嶼国では比較的早くから休校解除が進み、子どもたちが学校に戻ってきていることは特記しておきたいと思います(本サイト「パプアニューギニアの教育の今」にてその様子を報告しています。そちらもご参照下さい)。

他方で、「南アジア」「中東・北アフリカ」地域はほとんどの国で学校閉鎖が続いていることがわかります。「サブサハラ・アフリカ」「ラテンアメリカ・カリブ海(含む北米)」地域では、休校解除は緩やかに進んではいるものの、依然として多くの国で学校閉鎖が続き、子どもたちが学びの場を失っていることが窺えます。

5月下旬はイスラム圏ではラマダン明けの休暇の時期でした。また「ルワンダの教育の今」にて報告しているとおり、ルワンダのように早々に9月新学期制への移行を決めた国もあります。従って、ここにご紹介した学校閉鎖のマクロデータは、必ずしも各国の新型コロナウイルスの蔓延状況を直接反映してるわけではないことに注意が必要です。しかしながら、所得格差・地域格差が、新型コロナウイルスによる就学格差を生んでいる様子を、これらの分析結果から垣間見ることはできるでしょう。

全世界的な学校閉鎖は有史以来の大事件ではありますが、就学機会を失うことについては、ある意味平等でもありました(もちろん前回北館が報告したとおり、オンライン学習機会などを含めての格差は無視できませんが)。しかし休校/開校という「リアルな学習機会」の不平等は、就学格差、学力格差、ひいては経済格差助長に直結する由々しき問題です。

「withコロナ」の現状に即した支援を

移動が制限され、現地の事情が伝わりにくい事情はありますが、日本も含め、先進国の援助関係者は、自らのおかれた状況を背景に、やや楽観的に「afterコロナ」の議論を始めているように、私には感じられます。もちろん途上国にもこの先訪れるであろう学校再開への準備を進めておくことは必要です。先進国の学校再開経験から、途上国にも有用と思われる教訓を抽出しておかなければなりません。

一方で多くの途上国では学校閉鎖が続き、「withコロナ」の対応を強いられています。支援対象国が未だパンデミックの渦中にあるとの認識を持つことは、本当に必要な支援を届けるためにとても重要です。閉鎖が続けば、遠隔教育など、学校教育に変わる手段をさらに充実させるような支援が必要です。医療レベル、インフラ整備状況に応じて、学校再開への道筋も国ごとに異なることも容易に予想されます。それぞれの国がどのような回復フェーズにあるのかをきちんと見極め、各国・地域の状況に即した対応を検討することが望まれます。

私自身、日本の動向を背景に楽観的な気持ちになりがちです。世界の学びをとめないよう、引き続き気を引き締めていきたいと思います。また本サイトでは現地事情を詳しく伝えれられるよう努めていきたいと思います。

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